低遅延なOcular ParallaxレンダリングとVRにおける深度知覚への効果の調査


  • 両眼視差による立体視の方式は、簡便な立体ディスプレイとなるため、ヘッドマウントディスプレイや立体ディスプレイ等に用いられている。 しかし輻輳調節矛盾を起こす等、実際の事物を立体視する際の状況と異なることから、立体知覚の品質の低下を招く、不快感を起こす等の問題が指摘されている。 そこで近年は、アイトラッキングにより得られた眼のリアルタイムの情報をディスプレイにフィードバックすることで立体視の改善を試みる、Gaze-contingent displaysが発展しつつある。

  • Gaze-contingent displaysで導入したい眼の効果の一つに、Ocular parallaxと呼ばれる、眼の回転運動に伴い生じる小さな視差がある。 図1 (a)に示すように、眼の主点位置は概ね角膜節点位置N1にあり、眼球回転中心Cとは異なる位置にあることにより、 サッカード等の眼の回転運動により実は視点位置は絶えず動いており、これに伴い、小さな視差が生じている。 従来のヘッドマウントディスプレイを含む3DディスプレイはOcular parallaxを無視していたが、 今日のVR/ARシステムの発展により、市販のヘッドマウントディスプレイ上におけるOcular parallaxのリアルタイムレンダリングが可能となった。 しかしながら、このような市販デバイスでは大きな映像遅延が避けられず、Ocular parallaxレンダリングによる効果で見落とされているものがあると考えられる。

  • そこで本研究は、図1 (b,c) に示すような、高速・低遅延なOcular parallaxレンダリングシステムを製作した。 アイトラッキングには各眼にステレオカメラを用意し、被験者の前方にアナグリフによる両眼立体視のディスプレイが設置されている。 システムは360Hzで動作し、システム全体の遅延は平均で4.832 msと評価された。

  • 本システムを用いた被験者実験により、Ocular parallaxレンダリングによる動きが不自然に知覚されない許容レイテンシが評価されたほか、 Ocular parallaxレンダリングが両眼融合視を促進するが、単眼視による2個のテクスチャの前後判定には効果がないとの報告がなされた。

図1 (a) 眼の視点位置が眼球回転中心から異なることを考慮したOcular parallaxレンダリングと、それを考慮しない従来の3Dレンダリング間の比較. (b,c) 本論文で初めて実現した低遅延(4.8 ms)のOcular parallaxレンダリングシステム.


参考文献